「白米千枚田」で里山里海を学ぶ!匠・藤平朝雄さん
能登の里山里海は、のどかで美しい景観が特徴です。しかしそれは、海や山が織りなす天然の景色ではなく、人が自然と関わり合う中で形成されてきた風景と言えます。40年以上も能登観光の振興に関わってきた藤平朝雄さんに、「能登の景観」についてお話をうかがいました。
千枚田はなぜ“奇跡の棚田”なのか?
世界農業遺産の象徴的存在として人気の白米千枚田。形も大きさも不揃いの田んぼが織りなすあぜの曲線美は、ときに芸術的と賞されるように、見る者を圧倒するはずです。しかし、千枚田は単なるビュースポットというわけではありません。ここには度重なる苦難の歴史があり、それゆえに“奇跡の棚田”と呼ばれているのです。
千枚田は、いまなお稲作を行っている現役の田んぼです。通常、稲田というと平地に広がる風景を思い浮かべると思います。広大な田んぼに水を張り、機械で一気に稲を刈る。そのようにして行うのが一般的な稲作ですが、千枚田は極めて小さな田んぼの集まりであり、耕耘機も入らないような地形に立っています。つまり、稲作をするには極めて非効率。なぜ、このような場所に田んぼを作ったのでしょうか。
積み上げてきた経験知は、科学的知識にも劣らない!
山や海とともに生きてきた能登の人は、周囲の自然環境のことを熟知していました。山の頂にはブナの林があり、そこには豊かな水がたたえられている。そして、海に向かって緩やかに広がるこの斜面には、絶えずキレイな水が流れ込む。そういう経験知の上でここに棚田を作ったのだと思います。
まだ農業が近代化されるずっと前の時代ですが、平地が少ない能登の地理的条件を考えると、これは科学的な観点から見ても非常に合理的な判断です。だから能登の人は、山の斜面を切り開いても、ブナの林には決して手をつけなかった。こうやって自然と上手につき合っていく中で生まれたのが、この里山里海というわけです。
日本人の「生き様」を実感できる場所
千枚田は地滑りや高潮など、しばしば山と海から天災のダメージを被ってきました。また、国の減反政策や生産者の減少など、存亡の危機も多々ありました。それでも今日まで存続してこられたのは、様々な人たちの尽力もさることながら、「白米(しろよね)」という地名が表しているように、「おいしいお米が食べたい」という切実な思いがあったからだと思います。
栄養満点の水と、沈む直前まで当たり続ける日光に育てられた千枚田のお米は、豊富な旨みと粘り強い食感が特徴の一品です。お米を求めて自然を切り開き、ときに格闘しながら形成してきた千枚田は、まさにこの国で生きてきた日本人の「生き様」を実感できる場所と言えるでしょう。
白米千枚田
1004枚の田んぼが並ぶ白米千枚田。世界農業遺産に認定された今も、ライトアップイベントや田んぼのオーナー制度など、様々な企画とともに精力的な保全活動が続けられています。
能登に魅了されて移住してしまった藤平朝雄さん
東京都出身で、全国を旅する中で
能登に魅了されて移住してしまった
という藤平朝雄さん。以来40年以上、
輪島キリコ会館の館長や能登半島
広域観光協会の相談役を務めながら、
里山里海の保全活動に関わっています。
http://www.wajimaonsen.com/miru/
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